【報告】第6回Break Talks「テーマ:エシカルな選択」(2022.9.22)

9月22日(木)、S.C.P.Japanは、第6回目となるBreakTalksを実施しました。今回は、稲葉 哲治(いなば てつじ)さんをお招きし「エシカルな選択」をテーマに開催しました。

稲葉哲治さんは、開成、東京大学から一転、中退して社会的ひきこもりを経験。その当事者性を活かしてセゾングループ人材会社にてNPO協働事業等を担当後、日立グループにて新規事業、若者キャリア支援会社起業、人事、人材コンサルタントを経て、日本最大の人事・HRメディアにて人事コミュニティ運営等に従事されました。

現在は『えしかる屋』の他、サーキュラーエコノミー×人事・働き方のメディア『サーキュラーHR』編集長、ダイバーシティ&インクルージョンを推進するNPO法人GEWEL理事、ワールドカフェ・OSTファシリテーターとして活動中。エシカルを軸にソーシャルセクターでも活動し、鎌倉のセレクトショップ「えしかる屋」の運営やエシカルファッションショーのプロデュースなどで人と社会の関わり方の変革を行う他、ソーシャルビジネスのハンズオンインキュベーションも実施されています。

冒頭にS.C.P. Japan の折目が、今回のテーマに決めた経緯を紹介し、稲葉さんによるトークをお届けしました。その後、参加者が考えたことや感想を共有し合いました。稲葉さんに対しても質問が多く寄せられ、一つひとつ丁寧にご回答いただきました。

エシカルとは?

稲葉さんの自己紹介の後、そもそも「エシカルとは?」という問いかけからはじまりました。なぜこの言葉を今、考えなければいけないのか。それは、社会の仕組みが変わってきたことが大いに関係すると稲葉さんは言います。これまでは、大量生産、大量消費、大量廃棄が当たり前でした。言い換えれば、たくさん作り、どんどん使って、捨てる。モノだけでなく、人も同じです。畜産業も人道的なやり方から外れた工業畜産というやり方で、生産性・利益のみが求められてきたと言います。気候変動も森林伐採や人の傲慢なふるまいによるところが大きく、有限な資源を守るために今までのやり方を変えなくてはいけない時期に来ています。それこそ、持続可能な社会への転換期にきているのではないでしょうか。

SDGsはサステイナブル

国連が定めたSDGs。今や取り組む企業も増え、日頃、目にすることが多くなりました。実はその前に国連はMDGsという目標を定めていました。MDGsが、先進国が途上国の問題をどのように変えていくか、というところに観点を置いているのに対し、SDGsは一人一人が当事者。分け隔てなく、みんな同じようにゴールを目指そうという点に重点を置いています。言い換えれば、いい社会をつくる仕組みをつくっていこうという、サステイナブルの取り組みです。

「サステイナブル」と「エシカル」の違いとは?

同じ言葉だと思っている人が多いのですが、明らかに違う点があると、稲葉さんは指摘します。サステイナブルは、いわばハード面であり、より良い社会をつくるための仕組みです。社会のあり方で、制度やビジネスモデルだとも言えます。一方で、エシカルは倫理であり、行動規範です。ソフト面であり、個人の価値観だとも言えます。

例えば、アーミッシュと呼ばれる人たちがアメリカには住んでいます。彼らはテクノロジーやデジタルなものから距離を置き、中世と同じような暮らしを今でもしています。しかし、私たちも彼らのように江戸時代と同じような暮らしをしろと言っている訳ではありません。大事なのは、科学技術や文化の発展と共に、地球環境をより良くする行動と両立させていくことです。現状維持ではなく、どのように持続可能な状態に移行していけるのかを私たちは考えなければいけません。

より良い未来を作る仕組みをサステイナブルと言う観点でつくるとしたら、エシカルはあなたが、私が、個人が、より良い未来を作っていくために何をするか、どうするかを決めることです。一人ひとり違う、自分自身のあり方、人と社会の関わり方を考えるのがエシカルだ、と稲葉さんは言います。

私たちが普段使っている携帯電話、パソコン、一つをとっても背景にはさまざまな物語があります。例えば、服一枚を見ても、バングラデシュの「ラナプラザの悲劇」のように縫製業の過重労働があるかもしれないし、アパレルの店員さんたちが足を棒にして売っているのかもしれない。つながりの中で、いいことや悪いことが存在することは自明で、どちらか一方だけが存在することはありえません。

※「ラナプラザの悲劇:2013年4月24日、バングラデシュ人民共和国の首都、ダッカから北西約20キロの街・サバールで起きた商業ビル「ラナプラザ」の崩壊事故。縫製業に関する最大の事故として世界に知られている。ビルの倒壊で亡くなった方は1100名以上。負傷者は2500人以上、行方不明者は500名以上という大惨事だった。崩壊の原因がミシンの振動や発電機によるためであり、亀裂があり使用停止を言い渡されていたのにもあったのにもかかわらずビルのオーナーは営業を続け、守られるべき多くの命が失われた。違法な増築も原因の一つとされている。

パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードさんの言葉も紹介してくださいました。

「もしあなたが、世界で起きている問題を知っているのに何も取り組まなければ、あなたも問題の一部になる。でも、あなたが勇気を出して何かに取り組めば、あなたは解決の一部になる。」

稲葉さんの発表資料より

反作用が起きることを恐れない

エシカル=環境、ではありません。稲葉さんは、「あなたはどう生きますか?」という問いであり、より良い未来につなげるための自分自身の行動規範だと何度も強調されていました。自分自身の規範=エシカルに基づきながら、どのような未来を作りたいのかを決めて行動すること。そして、その際に生まれる反作用も引き受け、無視したり、誤魔化したりせずに行動することだと。稲葉さんは、反作用の一例として、ご自身が「えしかる屋」で開催しているファッションショーの服装を挙げてくださいました。

 例えば、ビーガン・ファッションを身に纏った女性。エコファーやカポックを身につけています。動物愛護、体質、地球環境などさまざまな要因から、人はビーガンファッションを選択します。一方で、人間も動物だから肉や毛皮を一概に拒絶するのは不自然だという声もあります。羊の革製品を身につけている女性には、産地のアフリカ諸国を応援したいという気持ちがあります。国際協力の観点からこの女性はこのアイテムを選択したわけですが、「国際協力」と「地産地消」も対立する顕著な例です。

彼女たちは、それぞれ自分が守りたい行動規範に沿って行動しているにすぎません。目先では対立しますが、認め合えるものです。一見、真逆の考えで、価値観がぶつかるように見えますが「より良い未来を作る」という目的は一致しています。つまり、認め合える行動規範です。ぶつかり合うものは、認め合いながら、より良い解決策を常に探っていくことができるのです。物事はすべて結局つながりあっていて、切り離すことはできません。

「エシカル」は行動規範ですから、誰にもできますし、何を選択肢しても間違いではありません。身の回りのたくさんのつながりを知って、自分が作りたいより良い未来、ソーシャルグッドに繋がる選択をしていく。これこそが今回のテーマである「エシカルな選択」です。

対立を理解しつつ、その後の改善方法や仕組みづくりを考えることで、一人ひとりが折り合いのつく立ち位置を探すことができるでしょう。

最後に

今回のレクチャーとディスカッションを通して、一人ひとりが自分らしく「エシカルな選択」をするにはどう考えればよいか、選択するためのヒントを得ることができたと思います。自分オリジナルの行動規範「マイ・エシカル」を決め、一人ひとりがより良い未来を目指して、違うことをやることにより、相乗的に社会がよくなっていくことを期待します。

S.C.P. Japanは、BreakTalksを通して今後も多様なゲストや様々な活動を紹介し、多様な人々が集まる場となることで、多様性や共生社会についてより深く考えるきっかけを作りたいと考えています。

最後に本企画を実施するにあたり、参加を快くお引き受けいただきました稲葉さん、運営面で動いてくださったスタッフ、手話通訳の皆様、そしてご参加いただきました参加者及び関係者の皆様に心より感謝申し上げます。